泥棒
師走の風が吹いている。
俺の財布にも空っ風が吹いている。
リストラされ、家賃を滞納し、最終手段だ。この家に入ろう。
最後の手段として、空き巣に入る事に決めたが、初心者なので、セキュリティが甘そうなこのボロ屋に決めた。
電気がついていないので留守だろう。
家の周りを見てまわると、窓が開いている。ここから入ろう。
窓から忍びこみ、1階を物色したが金目の物は無い。仕方なく、階段を上がり2階へ行く。
部屋の扉を開ける。
扉を開けると、爺さんが鴨居に吊るしたロープに首を吊ろうとしている。
驚きの光景に叫ぶ。
「ちょっと、何してるんだ!!」
俺は爺さんに飛びつき、ロープから引き離す。
「何するんじゃ、儂なんて生きていても……」 爺さんはジタバタと暴れるが、俺が離さないと分かると、大人しくなり泣き出した。
俺は、空き巣に入った事も忘れて、心から同情する。 「爺さん、何があったか分からんが、死んじゃ駄目だよ……」
正直、人に同情できる立場じゃないが、この状況では放っておけない……
ガチャ。 下からドアを開ける音がする。
ドシドシと音の主は、階段をあがってくる。
バットを手に持った中年男性が、部屋の入口で叫ぶ。
「お前ら、なんだ! 空き巣か!」
お前ら? 俺が振り返ると、いつの間にか爺さんは窓に足をかけていて、すぐに飛び降りる。
俺も、慌てて窓から飛び降りて逃げる。
地面に着地し、爺さんを探すと、すでに遠くにいる。
間違いなくプロだ。
懐を探ると財布が無い。 やられた、でも財布はスッカラカンだ。ざまあみろ!
夜の住宅街をダッシュしながら、俺は笑う。