ポンコツ親父のガラクタ日記

ポンコツ親父の下らないガラクタ日記です。ポンコツ雑記とガラクタ小説をあげています。お時間のある方は読んでやってください。m(_ _)m

zoo

すっかりと陽が落ち、空には月が登る。 昼間とは、うって変わり人気がなくなった園内にはゆったりとした空気が流れている。

「いや、今日も人が多くて騒がしかったな」檻の中でどっかりと座ったオラウータンが言う。

「ホント、ホント」「騒がしい、騒がしい」「やっと落ち着いた」シマリスたちが一斉に喋る。

マレーバクが月を見ながら、「今日は日曜日だったからね、明日からは空くでしょう」と言う。

「しかし、こんな小さな動物園に来るなんて、暇な連中だよ」皮肉屋のフラミンゴ。

「そんな事言うものじゃないわ」とヤギ。

静かな夜の動物園で、動物たちの鳴き声が響く。 そこに足音が近づいてくる。 動物たちは黙り込み、通り過ぎていく人影を見守る。

「山下か、もう帰りかな?」また、オラウータンから会話が始まる。

「いつも最後まで」「ご苦労様だね」とシマリスたちが鳴く。

「でも、山下さん元気なかったわね?」マレーバクが心配そうに言う。

「そうか? ヤツはいつも辛気臭いぜ」とフラミンゴ。

「何か心配事かしら?」とヤギが草を喰みながら言う。

山下さんは、この動物園の飼育員だ。

「知ってるか? 山下はトウコと付き合ってるんだぜ」したり顔のオラウータン

「そうなの?」「お似合い」とシマリスたち。

「私も親しそうにしているのを見たわ」とマレーバク

「ふん、辛気臭いカップルだな」とフラミンゴ。

「元気なかったのは、トウコさんと何かあったのかしら?」とヤギ。

会話は止み、動物園の動物達は思い思いに夜を過ごす。

次の日は、曇りの月曜日。いつもの平日より少し来園者も少ない。 飼育員のトウコは、フラミンゴの檻の掃除をしている時、山下さんと目があったが顔を伏せた。

深夜の動物園

オラウータンが「トウコ元気ないな。山下何かしたのか?」と言う。

シマリスたちが「確かに!」「でも」「山下も元気ない」と続く。

「喧嘩かしらね〜」とマレーバク

「ふん、大した原因じゃないだろ」とフラミンゴ。

「心配ね〜」と草を喰むヤギ。

それから、なんとなく元気ないトウコと山下を見守りながら数日が経っていく。 動物達には、いつもの日常だ。

夜の帳がおりて客がいなくなると、オラウータンがやっと話せると勢いよく喋りだした。

「おい、聞いたか! 山下のヤツ、親が倒れたから故郷に帰るらしいぞ!」

シマリスたちがざわめく。「本当?」「悲しい!」「やめちゃうの?」

「それで、トウコさんも元気なかったのね」とマレーバクも悲しそうに言う。

「ふん、仕方ないな! 可哀想だが……」とフラミンゴ。

「本当、もう山下さんは戻って来ないのかしら」と草を喰むヤギ。

その時、動物園の隅で人の話し声が聞こえる。山下とトウコだ。 「今日で最後ね。向こうでも頑張ってね」トウコが無理矢理笑う。 「ありがとう。落ち着いたら、連絡するね」山下の方が辛くて笑えない。 そして、2人は一緒に動物園から帰っていった。 後に残った動物たちは、誰も喋らなかった。

それから、山下が抜けた動物園は、何も変わらずにいつもの日々が過ぎていく。

お客さんが帰り、静かな園内になったところでオラウータンが喋りだす。 「新人飼育員、なってないな……檻が汚れてるぞ」

シマリスが続く。 「仕方ない」「新人だから」「頑張ってる」

マレーバクオラウータンを諭す。 「これから上手になっていくんだから、我慢なさい」

フラミンゴは嘆く。 「山下のようになるには、あと何年かかるんだか」

草を喰むヤギは、月を見る。 「山下さん、元気かしら」