ヘイ!タクシー!①
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世間にイベントがない時は、ひたすら駅前や繁華街を流して客を見つけるしかない。 しかし、なかなか客は落ちていないものだ。
不景気のあおりをモロに受けるタクシー運転手はなかなか景気の動向に敏感だ。
最近、稼ぎが悪いせいか妻のご機嫌も斜めだ。反抗期の息子は口もきこうとしない……
そんな、不景気を感じる駅前で、陽気な男を拾う。ちょっと派手なスーツで酔っ払ってはいないようだが、よく喋る。
「……だから、運転手さん。俺が一生懸命話しているのに妻はつれない態度なのよ、俺はエアーじゃないってのに……」
初めてなのによく喋る客だ。だが、不景気のなかでは貴重な客だ。
「最近なんか、全然話を聞いてくれないんですよ!目も合わせようとしない、ノールック。だから振り向くまでマシンガントークですよ!」
ずっと喋っているから妻も疲れているのだろう。 私もすでに疲れ始めているくらいだ。だが、客は終始楽しそうに会話を続ける。
「あ、このラーメン屋、あんまり旨くないッスよ!油が多すぎっ!こってりしすぎ!メタボ一直線!」 お喋りは止まらない……
いい加減、疲れた頃に目的地に到着する。
目的地は、どこにでもある様なアパート。 男はタクシーを降りて、アパートの明かりを見つめる。
俺は、静かにタクシーを発車させる。
やかましいが、金を払ってくれるなら上客だ。
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日増しに街が元気をなくし、景気が悪くなっていくと、我が家も明るさを無くしていくようだ。
客を求めて街を流すと、また、あのお喋りな客が手を振っている。
「いや〜、奇偶ですね! また会うなんて!」
お喋りな男は喋り続ける……。 ちょっと、鬱陶しい感じもあるが、この不景気では有難いお客様だ。 適当に話を合わせる。
とにかく、車内ではお喋りが止まらない。いい加減、頭が痛くなってくる。
うんざりした頃に、アパートに到着する。
男は、タクシーを降りて、お喋りに満足した顔でアパートの明かりを見つめる。
いつまで経っても、アパートに入ろうとしないのが気になったが、お喋りに付き合わされるのも御免なのでタクシーを発車させる。
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