変異 ニ
👇この話の続き!
競馬の手伝いをしてから、息子は約束通り人間の子供と会っていないようだ。
巷の噂に喋るネズミは困っている人々を助けるという変化はあったが、平和な日常が続いていた。
息子は最初は元気がなかったが、少しづつ回復してきてるようだった。
そんなある日、突然に妻が死んだ。
猫に襲われたのだ。
鉱石の力を使う間もなく、突然襲われたのだ。猫にとって我々はネズミと一緒だ。
すぐに、鉱石の力で猫を倒して妻を取り返したのは息子だった。
妻は、家の近くの空き地に埋葬した。
宇宙から来た我々一族も地球の土へと返っていく。
妻を失ったが、息子を含め7匹の子供達を養わなければならない。気落ちしてはいられないが、正直落ち込んだ。
そんな私を見かねてか、息子が言った。
「お父さん、花火を上げよう」
確か、妻は人間のあげる花火が好きだった。妻への供養のつもりだろうか。
「でも、お前どうやってあげるんだ」
「任せといてよ」
息子は、その日から兄弟達に指揮をして打ち上げの準備を進めていった。
息子は、人間の言葉を喋るだけでなく、書物を読んだり、パソコンを使って分からないことを調べることが出来るようだ。
息子は、鉱石を使ってカラスを操り、自由に街中を飛び回った。
次々と花火に必要なものを準備しているようだった。
私は今まで一族でこんなことが出来る者を見たことがない、明らかな進化だった。
「父さん、今日やろう」
そう言って、息子は自分が操るカラスに私を乗せた。兄弟達もいつの間にか、カラス達を操れるようになっていた。
「どこに行くんだ」
「街中では無理だから、郊外へ行くんだ」
行き先は、郊外の倉庫の屋根だった。屋根には既に花火を打ち上げる準備が出来ていた。
街中と違い、この場所は静かで、夜の暗闇が濃く感じる。
「それじゃ、いくよ」息子はそう言って、起爆装置を操作する。
轟音が響き、夜空に華が咲く。
こんな近くで見る花火は初めてだ。私は、妻の形見の鉱石を握りしめる。
「お父さん、僕は街を出るよ」
空で輝く花火を見ながら、私はうなずいた。