送迎
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思春期も終わったのか、息子との会話が増えた。
俺は、タクシードライバーという職業柄、あまり子供と家に居る時間が被らないのだが、時々でも会話があるのは良いものだ。
昨夜、テレビを見ながらビールを飲んでいたら、息子が聞いてきた。
「親父、知ってる?」
「何をだ?」 相変わらず、主語と述語がない。
「都市伝説だよ。ネズミが喋るっていう都市伝説が流行っているんだ」
「喋るネズミなら知っているぞ。ディズニーランドに居る」
「違うって!」
息子の話によると、最近都内に喋るネズミが居り、困った人々を助けるらしい。
高校生と言っても、まだ子供なものだ。
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夜7時、手をあげてタクシーを呼ぶ客がいる。
客は、40代のスーツ姿のサラリーマンで、行き先に郊外の倉庫を告げる。時間にすると30分くらいだろう。
途中、薬局が見えると、停めてくれと頼まれ、薬局に停める。
サラリーマンは、薬局の袋いっぱいに何かを買い込んでいた。
何となしに「何を買ったんですか?」と聞くと、「バルサンだ」と答えた。
無口そうな客だが、会話はするらしい。
「倉庫でネズミ退治ですか」
「そうだな、平和な生活のために害虫駆除だ」
車は発車する。薬局が遠のき、景色は自然が多くなっていく。
車を走らせている間、客はスマホを見る訳でもなく、窓を眺めている。
「お客さん、喋るネズミの都市伝説知っていますか?」
「いや…」
「何でも、最近、喋るネズミが居て、困っている人を助けるらしいですよ」
「ディズニーの話か」
やっぱり、皆言うことは一緒だ。
「でも、お客さん…… もしかしたら、ネズミは宇宙人かもしれませんよ」
「何故だ」
少し興味を持ったらしい。
「だって、ネズミの姿をしていれば人間に気付かれずにすみますからね」
「なるほど……」
しばらくして、タクシーは目的地に着く。
客は降りる際に、「15分で戻るから待っていてくれ」と言い、倉庫に消えていく。
俺は、タクシーから出てタバコを吸う。客は今頃バルサンでも焚いているのだろうか。
突然、爆音が倉庫から聞こえた。
鼓膜が破れるかと思う程の爆音に驚き、倉庫を見ると、空に大きな花火が打ち上がっている。
火の粉が降ってきたので、慌てて車に乗り込んでエンジンをかける。
発車させようとしたところに、客が顔面から血を流している爺さんを連れて乗り込んできた。
「出してくれ」客が少しも慌ててない様子で言う。
俺が急いで、車を発車させると、爺さんが花火はやりすぎだとサラリーマンに言う。
サラリーマンは、こう言った。
「宇宙人がやったのだろう」
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