馬券 ②
最悪なヤツから金を借りた3年前の自分を殴りたいが、どうしようもない。
今の生活ですらカツカツなのに1週間で100万なんて金を用意できる訳もない。
この数日間、悪い頭を総動員して考え、導いた結論は、この町から逃げ出すというものだ。
息子に転校を強いてしまうのが、申し訳ない。
俺は、息子に事情を話した。
息子は転校は嫌だけど仕方ない、俺と一緒なら大丈夫と言ってくれた。
自分の不甲斐なさと息子の優しさに、不覚にも、少し泣いてしまった……
次の日、息子に荷物を整理するように言い、俺は定刻通りに出勤した。きっと、これが最後の出社となるだろう。
夕方、買い物をして帰ってきた俺に息子が、「あのね、ネズミさんに話したら、これはどうかって」と言い、新聞を差し出してきた。
その新聞は、競馬新聞だった。
ネズミがアドバイスをするなんて、おとぎ話だ。
俺が競馬新聞を手にすると、馬の名前が赤ペンで丸く囲まれている。その馬の名前は、「サキニミライ」
妻の名前は、サキ。息子の名前は、ミライだ。
俺は、ネズミのアドバイスに全財産を賭けることに決めた……
🐭 🐭 🐭
こうして、話の冒頭に戻る。
アパートで息子と2人、馬券を握りしめ、テレビで競馬の出走を待っているのだ。
「お父さん、始まるよ」
息子が言うのと同時にレースは始まった。
レースは最初は団子状態だったが、2頭が集団から抜け出してくる。その差は、最後の直線に差し掛かる時には大きくなっていく。
残念ながら、先頭争いをする2頭にサキニミライはいない。
サキニミライは、後続集団の塊の先頭を走っているが3位だ。
「流石に駄目だ」と言って、天を仰ぐ。
「お父さん!」息子が叫んだので、テレビを見る。
先頭争いをしていた1頭が大きくバランスを崩し、もう1頭に接触してしまった。その勢いで2頭の騎手が落馬した。
そのゴタゴタの中、後続集団がゴールしていく。もちろん、先頭はサキニミライだ。
俺と息子は互いに顔を見合わせ、歓声をあげて抱き合った。
テレビでは、落馬した騎手を映している。気のせいか、テレビの端に石をくわえたネズミが走り抜けたように見えた。
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