ポンコツ親父のガラクタ日記

ポンコツ親父の下らないガラクタ日記です。ポンコツ雑記とガラクタ小説をあげています。お時間のある方は読んでやってください。m(_ _)m

◆ 形状記憶 ◆ ①

f:id:garakuta32:20211115222055j:plain

  ◆   ◆   ◆  

午前7時15分、バスがバス停に停車する。 駅から遠いバス停から、この時間に乗るのは私だけだ。

バスに乗り込み、いつもの席に座る。 1人掛けの席で、前から4番目の席だ。

私は毎日この席に座る。

前の席には作業着で頭にタオルを巻いた男が腕を組んで眠っている。

扉の脇には、メガネをかけた神経質そうなサラリーマンが、席が空いているにも関わらず立っている。

この2人は毎朝見る顔だ。月曜日から金曜日まで、まるで判を押したように同じ時間の同じ位置に存在している。

そんなことを言っている私も毎日何の変化もなく、同じ時間のバスに乗って、同じ生活を送っている。

サザエさんの磯野家よりも、単調で変化のない毎日だ。

「毎日、毎日、同じ生活で飽きないか?」と同僚に聞かれるが、私にとっては毎日を同じように過ごすことが何よりも大切なことだ。

バスが駅に駅前につくまでの30分間、駅に近づくにつれて乗客は増えていく。

ついに席が埋まって、乗客は立って乗るようになる。

「ちょっと、やめて下さい……」 か細い声が聞こえてくる。

体格の良い男の体に隠されるように立っている女性の声のようだ。 どうやら、痴漢らしい……

声は小さく、痴漢にやめるように言ったらしいが、痴漢は離れる素振りを見せない。

困ることは、ここで騒ぎになるとバスが遅れてしまうことだ。

恐らく、会社に遅刻するほどではないが、いつもよりは遅くなる。 余裕のない朝は好きじゃない……

バスがバス停に停まる。

私の前の席から作業着の男が立つ。 作業着の男は、痴漢の後襟を掴み、ほぼ同時に後向きに引き倒す。 そして、そのまま扉から外に引きずり出した。

痴漢男は何が起きたか分からないようだ。

男を引きずりだした作業着の男が再びバスに乗ると扉は閉まり、バスは動き出す。

作業着の男は元に居た席に座ると、腕を組んで目を閉じる。

バスには、いつもの光景が戻る。 形状記憶しているかのように、何が起きてもバスはいつもの状態に戻る。

形状記憶のワイシャツのように洗濯すれば、何もかも元通りだ。

  ◆   ◆   ◆