ポンコツ親父のガラクタ日記

ポンコツ親父の下らないガラクタ日記です。ポンコツ雑記とガラクタ小説をあげています。お時間のある方は読んでやってください。m(_ _)m

暗夜の猿

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空に月が浮かんでいる。今宵は三ヶ月だ。

最近はめったに行かなくなったが、ちょっと気になる映画があったので、久しぶりにレイトショーで映画を満喫した。

俺は月を見ながら、とぼとぼと歩く。

ふと、ビルの7、8階あたりで何か動く影が見える。

その影は、窓から出て、滑らかにビルの壁面を伝って下りてくる。

俺が、その影を見ていると影も俺に気付き、地上まで下りて、近づいてくる。

影と目が合う。

影の目は何を考えているのか人間には理外で、暗闇に光って見える。

俺は腰から特殊警棒を抜き、振り出す。

影は、俺に襲いかかる。俺は警棒を横一文字に振りながら後ろに下がる。

影の正体は猿だった。

人間の子供程はある体格の猿の口には血らしきものが付いており、もう一度、俺に飛びかかる隙を伺っている。

何という種類か分からないが、見た事もない猿だ。手が長く、毛並みは赤みがかっており、俊敏そうな体型をしている。

猿はもう一度、俺に飛びかかる。俺の顔目がけて飛んでくる。

俺が、迎え撃とうと警棒を振ると、空中で体をよじらせて避けた。

そして、長い腕を伸ばして、俺の腕を引っ掻く。

俺のシャツが破れ、腕に傷が出来る。

「この身体能力はやっかいだな…」

俺は、道に落ちている雑誌を走って掴み、ライターで火をつけ、猿に向ける。

猿は火に怯えた顔をする。野生動物の火を恐れる習性は残っているらしい…

火のついた雑誌を猿に投げつけると、猿は後ろに下がる。

「何だ、火事か?」

遠くから二人連れの男が、こちらに近づいてくる。

その時、笛の音が鳴り、猿が走る。猿はビルの影に消えていく。

ビルの影に、男の顔が覗き、俺のことを確認したのか、すぐに消えた。

男は坊主頭の表情のない顔した中年のように見えた。

俺は足早にその場を立ち去る。

遠くからサイレンが聞こえてきた…

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「何、その傷?」

「大丈夫、トゥラン?」

夜遅くにも関わらず、タトゥとウズィが起きてきて、俺の傷を見るなり、消毒液と包帯を持ってきてくれる。

傷は見た目ほど深くなく、縫うほどではなさそうだ。

次の日には、ネイがやってきた。

「トゥラン、とんでもないのに狙われたな!」

ネイはそう言い、テレビをつける。テレビはニュース番組で、あるビルを映している。

このビルに住んでいた住人が、獣に首を食いちぎられて死んでいたらしい。

「その猿の仕業だな…」ネイが俺の腕の傷を見ながら言う。

そう、テレビに映ったビルは昨夜、猿に襲われたビルだ。

「獣を手なづけて、暗殺を請け負うヤツがいるって話は聞いたことがある」

俺は腕を擦りながら言う。

「多分、そいつの顔を見ちまったなら、トゥランをまた狙いにくるぞ」

まいったな… 俺は、この街では古株だ。あいつらが調べればすぐに、ここにたどり着く。

「下手すりゃ、もう見張られているかも…」

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俺達は、日が暮れると海沿いの公園へと移動した。

あんな猿を連れているのじゃ、まず昼間には襲って来ない。来るなら夜だろう。

建物の中で、あんな猿に襲われたら逃げ場がないので、こうして開けた公園へとやってきた訳だ。

カップルがまだまばらに居る公園を俺が1人で移動する。

もし、猿が現れれば、近くに操っている男がいる筈だ。それをネイに探してもらう。

ウズィには、見えないところで待機してもらい、ある作戦を授けた。

だいぶ夜の闇も深くなり、人出も無くなる。俺は、ベンチに腰をかけて待つ。

ガサリという音がして、アイツが現れる。

獰猛な性質と不釣り合いに眼は澄んで見えるから不思議だ。

俺は、ベンチから立ち上がり、警棒を振り出す。警棒はキーンという音とともに50センチ程に伸びる。

そして、金属製の水筒を取り出して、警棒と反対の手に持つ。

俺の背中は海なので、猿を操る男は、反対側の公園のどこかに居る筈だ。

ネイが早く見つけてくれるのを祈るのみだ。

猿がジリジリと間合いを詰めてくる。

俺は警棒を猿に突き出して、警戒する。

猿は、軽く屈むと、一気に俺に飛びかかる。

俺は、警棒を振って、叩き落とそうとするが、猿は空中で体を捻って避けながら、腕を伸ばして反撃する。

腕を少し引っ掻かれた。俺は再度、警棒を振り抜き、猿は後ろに間合いを取る。

俺の腕から血が流れる。

まだ、ネイから男を見つけたとの合図もない。もう一度襲われたら、猿に喉元を噛みつかれかねない…

仕方ない… 隠れている筈のウズィに叫ぶ。

「ウズィ、今だ!」

猿がビクんと体を震わせて、動きを止め、不快感をあらわにする。

そのすきに、俺は持っていたボトルの蓋を開け、中の液体を猿にぶちまける。

猿は、ウギャーと吠えるが、不快感から身動き出来ない。

ウズィのパソコンに繋がれたスピーカーから人間には聞き取れない周波数の大音量がこの周囲に流れているのだ。

俺は、猿に火のついたジッポを投げつける。

ガソリンをかけられた猿は一気に炎上すると、気が狂ったように走り出す。

猿の走る先の茂みから、あの男が出て来て、必死に笛を吹いているが、猿には届かない…

「く、来るなー」

猿は炎に包まれたまま男に抱きつき、喉元に食らいつく。

男は、喉から血を吹き、火達磨になりながら、海に走っていき、堤防から猿もろとも海へ飛び込んだ。

「あそこに居たのか!」

ネイが堤防に駆け寄る。

「死んじゃったの?」

堤防からウズィが、海を覗き込む。闇夜の海には何も浮かんでいない。

俺は、猿に付けられた傷を押さえて、海を見る。

「悪事をさせる緊箍児(きんこじ)が悟空から外れて、報いを受けたんだ…」

「何のこと?」ウズィが俺を見上げる。

「さぁ、帰ろう…」