ポンコツ親父のガラクタ日記

ポンコツ親父の下らないガラクタ日記です。ポンコツ雑記とガラクタ小説をあげています。お時間のある方は読んでやってください。m(_ _)m

玄鳥

f:id:garakuta32:20220307185959j:plain

ガレージの天井から、雛の鳴き声が聞こえる。

どこから聞こえるのかと探すと、入口の上にツバメが巣を作っていた。中を覗けば、雛が3羽。

「いつの間にか巣を作られていたな…」

「でも、トゥラン。ツバメの巣は縁起良いんでしょ?」

ウズィが嬉しそうに聞いてくる。きっと、雛の成長が見たいのだろう。

「そうだな… せっかくだから、巣立つまでは巣を取るのはやめとこう」

親ツバメは、せっせと餌を運ぶ。雛達はすくすくと育つ。

ウズィとタトゥは、楽しそうに毎日ツバメ達を眺めている。

「私の国にも、ツバメは来たわ」

「ツバメは、アジア中を旅してるんだよ」

しばらくの間は、会話にツバメが登ることが多くなりそうだ。

ツバメ達が我が家に来てしばらく経ったある日、気付くと、ツバメの巣の下に少女が立っていた。

褐色の肌に瞳の大きな、ウズィくらいの歳の少女だ。

「ウズィ、居る?」

ウズィは少女を見て、久しぶり… と言って、ガレージのテーブルに少女と2人で腰かけて話し始めた。

タトゥは、飲み物を2つテーブルに運んであげる。

「ウズィに友達なんて、珍しいわね」

俺は、どこかで少女を見たことがある気がするが、思い出せない…

✈ ✈ ✈ ✈ ✈ ✈ ✈ ✈ ✈ ✈ ✈ ✈ 

「僕ん家の隣に住んでいた子だよ!」

ウズィに、その日の夕食時に聞いて納得する。隣のアパートに住んでいたのなら、見た事があったのだろう。

「でも、可愛い娘じゃない。仲良かったの?」

タトゥが茶化しながら、聞く。

「たまに話すくらいだよ。ただ、今度引越しちゃうから、お別れを言いにきたんだって…」

「あら… 残念ね…」

✈ ✈ ✈ ✈ ✈ ✈ ✈ ✈ ✈ ✈ ✈ ✈ 

夏も終わりに近づき、風が涼しくなってきた。

ガレージのスズメ達は、雛が巣立ち、親鳥もまた旅に出た。

「なんか、寂しいね」

「来年、また来るわよ」

などと思い返していると、以前来た少女がウズィに会いに来た。

ウズィと少女は、一言、二言、会話を交わすと、「元気でね」と言い、別れる。

俺は少女の後姿を見つめながら、何かが思い出せないでいた…

昼食でタトゥが、少女のことを聞くと、今日引越すそうだ。

2人の会話を聞いていて、急に思い出す。

俺は昼食を放り投げ、2階の物置部屋に上がり、押し入れの中の古いノートを探しはじめる。

そうだ、あの少女は…

古いノートが見つかり、ページをめくると、あの少女が居た。

昼飯の途中で抜け出して来たのを不審に思ったのか、ウズィとタトゥが2階に上がってきたので、ノートに貼ってある少女を見せる。

「何? あの子じゃない!」

「本当だ…」

古いノートに貼られているのは、少女の写真が載った雑誌をスクラップしたものだ。

「トゥラン、でもこの写真古くない?」

タトゥが重要なところに気付く。

「あぁ、もう30年以上前のものだ」

2人は驚く。当たり前だろう。

「俺は、内戦の続く祖国で少年兵にされたんだ。そして、負傷して病院に運びこまれた。そこで運良く人権保護団体の目にとまり、この国に難民として連れて来られた」

突然の昔話に2人は戸惑う…

「俺が、この国に来てからも、祖国は内戦が続いていた。俺は雑誌や新聞で祖国の記事を集めてスクラップしていたんだ」

そう、この少女の写真は、内戦の中、家を奪われていく市民が居る悲惨な内戦の状況を、世界に知らしめたものだ。

「じゃあ、あの子のお母さんかな?」ウズィが聞く。

「そうかもしれない… ただ、俺は祖国に戻り、内戦を終わらせるために活動していたんだが、誰もこの少女のことを知らなかったんだ…」

そう、小さな国なのに誰も知らない、すべてが謎の少女だ。

「そういえば…」ウズィが思い出す。

「あの子の親を見た事がない…」

「そうか…」

よく分からないが、少女はツバメと共に姿を消した。

次はどこに向かうのか。

ガレージの天井には、主を失った巣が残されていた。