打ち上げ花火 ①
♨ ♨
「破目をはずす」の語源を知っているかな?
馬をコントロールするために口にくわえさせる道具を「はみ」と言う。
この「はみ」が変化して、「破目」となったらしい。
ようは、「破目をはずす」とは、馬がコントロール出来なくなるような状態な訳だ。
あたり前だが、「破目をはずす」と碌なことが無い。
俺がチンピラの財布をすり、中に現金100万円が入っているのを見た時には、まだ理性があった。
悪いことをして手に入れた金を派手に使うと足が出る。
だから、最初はしんみりと行きつけの居酒屋で飲んでいた。
しかし、気付いたらキャバクラで馬鹿騒ぎしていた。
70歳近い老人が、破目をはずしすぎた……
そして、朝方に店からフラフラで出たところを、財布をすったチンピラにつかまり、黒のアルファードに無理矢理乗せられて、拉致された。
まさに「破目をはずす」と碌なことが無い典型だ。
酒の飲み過ぎか、殴られたのか分からないが、今まで気を失っていたらしい。
「ジジイ、拉致られたのに、寝てるなんて良い度胸だ」
どうやら、飲み過ぎの方だったらしい。
俺は、手を後ろで縛られ地面に座らされている。それを男達が囲んでいる。
薄暗い事務所にいかにもな人相の悪い男が3人。財布をすったチンピラが頭らしい。
「とにかく、金を返せよ」
チンピラが、俺の頭を小突いて言う。
「大変申し訳ないが、全部使っちまった」俺は大変申し訳なさそうに言った……つもりだ。
チンピラは、チッと舌打ちして「俺の財布はどうした」と聞いてきた。
「申し訳ない、捨てちまった」
俺は、思い切り腹を蹴られる。
一瞬、息が止まり、嘔吐する。キャバクラで飲んだ酒が出ちまった。
「ジジイ、1千万だ」
俯いたままの俺にチンピラが言う。
「俺の財布には、身分証明書とクスリも入ってたんだ。警察に届けられたらただじゃ済まねえ」
なんてマヌケなヤツだ。思わず口にしそうになった。
「迷惑料込みで、1千万払え」
俺は、俯いたまま「無理だ……」と答える。
「じゃあ、東京湾行きだな」
チンピラが俺の頭を蹴る。 耳がちぎれたような痛みが走る。懐かしい痛みだ。
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