愛妻弁当
結婚して20年。
妻が、いきなり弁当を作ってくれるようになった。
それなりに上手いラーメン屋や定食屋を開拓していたので、若干ありがた迷惑なところがあるが、正直嬉しい。
タクシー稼業なので、電子レンジで温めることができないが、適当なところに車を停めて、すぐに食べることができるし、行列に並ばないのも良い。
最近腹が出てきたのを気にしているのか、質素な内容だが、公園なんかで食べると気分転換にもなる。
でも、野菜の煮物、ヒジキ、きんぴら、御飯に梅干しだけは少し寂しい。せめて、肉のひと欠片も欲しいものだ。
しかし、息子も高校に入り、妻もパートを始めたので、家計が厳しいのもあるのだろう。
妻が弁当を作ってくれるようになって、小遣いも減らなくなった。
たまには、花でも買って、早く帰ってプレゼントしてやろう。
今日は、公園のベンチに座り昼食をとることにした。
隣に座った爺さんが、話しかけてくる。
「愛妻弁当ですか、羨ましいですな。」
少し照れくさいので、愛想笑いをする。
包みから弁当を取り出すと、いつもと違う弁当箱が出てくる。どうやら、息子の弁当と間違えたようだ。
「なかなか豪華なお弁当ですな。」爺さんが感心する。
確かに豪華だ。唐揚げにトンカツ、こんな豪華な弁当を毎日食ってるのか、アイツ……
豪華な食事に胃もたれしながら花を買って、早めに帰宅する。
俺の帰宅に気づかなかったのか、息子と妻が話している。
「母ちゃん、親父と弁当間違えただろう!煮物とかしか無かったよ。」
「あら、ごめん。パートあまりの惣菜を詰めただけだからね。」
俺は、花を落とした……
次の日、俺はタクシーを停めて行列に並ぶ。
お気に入りのラーメン屋からは、美味そうな香りが漂ってきた……
👇この運転手の話 garakutablog.hateblo.jp