打ち上げ花火 ②
散々俺を蹴ったチンピラにも情があるのか、ひとつ提案をしてくれた。
もちろん、有り難くない提案だ。
「お前の代わりに金を払えそうなヤツに電話しろ」
せっかくの提案だが、俺に身寄りは無い。そんな金払いの良い知り合いがいるならスリなどしない。
仕方がないが、アイツに電話するしかない……
俺は手を開放され、電話を渡される。
「もしもし……」アイツが出る。相変わらず感情を感じさせない声だ。
「おぉ、俺だ。ちょっと困ったことがあってな」
「……」
明らかに警戒しているのが伝わってくる。
「1千万貸してくれ」
「冗談なら切りますよ」
ここで切られたら終わりだ。
「いや、財布をすったチンピラに拐われてな、金を請求されてるんだ」
「余計なこと言うな」チンピラが頭を小突く。
「1千万とは、お高いな」アイツが感心したように言う。
「それが、財布にクスリを入れてたらしくてな、パクられるかもしれんから迷惑料だ」
「余計なこと言うなと、言ってるだろう」チンピラが怒りだす。
「マヌケな話だな」アイツは呆れたように言う。まったく同感だ。
「あんたは、今どこに居るんだ」
俺は、薄暗い事務所を見渡す。窓からは倉庫が見えるくらいだ。
「知らん、どっかの倉庫の近くの事務所だ」
「俺には、1千万なんて無い」そう言って、アイツは電話を切っちまった。
昔、組織にいた時には世話してやったのに、なんてヤツだ。
「おい、どうなったんだ」チンピラが怒鳴って聞いてくる。
「朝までには、用意すると言ってた……」
今が何時か分からないが、とりあえず嘘をつく。 もう、知るか……
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